WARとは
WARとは、Wins Above Replacementの頭文字をとった略語で、野球選手の活躍を評価する指標の一つです。チームにどれだけ貢献しているかを「平均的な控え選手」と比較して数値化したものです。WARは、野手と投手の両方で使用され、それぞれの能力を総合的に評価されます。
近年のメジャーリーグでは、選手と契約する際の判断材料であったり、MVPや殿堂入り候補の評価基準としても重視されています。
WARの特徴
総合的な指標
攻撃力、守備力、走塁、さらには投手の場合は投球成績も含め、選手の全体的な貢献を一つの数値で表します。打撃で素晴らしい成績を残しても、走塁ミスや守備でエラーが多い選手はWARの値が低くなります。
正の値が優秀
WARの数値が高いほど、その選手がチームに貢献していることを示します。
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- 0 WAR: 平均的な控え選手。
- 2 WAR: 平均的な選手。
- 5 WAR以上: 非常に優秀な選手。
- 8 WAR以上: MVP級のシーズン。
尚、ひどい成績を残すと、WARの数値が負の値(マイナス)になります。
ちなみに2024年の大谷翔平選手はDH専門でしたが、シーズンWARが9.2でリーグトップで2位のリンドーア選手と2以上の差をつけたので満票でのMVPも自然な決定だったのかなと思います。
WARの計算方法
野手と投手で要素が違うので、WARの計算方法が変わります。それぞれの計算方法は次の通りです。
野手のWAR計算方法
野手WAR = 打撃貢献 + 走塁貢献 + 守備貢献 + ポジション補正 + リーグ補正 ー リプレイスメントラン
野手のWARは、選手の打撃、守備、走塁の貢献を数値化し、それをリプレイスメントレベル(控え選手レベル)と比較して算出します。計算は複雑で、以下の主要な要素を組み合わせて導き出します。
要素の説明
1. Batting Runs(打撃貢献)
打者の得点貢献を計算する指標で、以下の要素が考慮されます:
- wRAA(Weighted Runs Above Average): 打者の打撃成績(wOBA)を基に、平均的な選手と比較してどれだけ多くの得点を生み出したかを算出します。
かなり複雑なので計算式は割愛します。
2. Baserunning Runs(走塁貢献)
選手の走塁能力(盗塁成功、進塁能力、アウトになるリスクなど)を評価します。
- UBR(Ultimate Base Running): 通常の走塁で得点にどれだけ貢献したかを測定。
- wSB(Weighted Stolen Bases): 盗塁や盗塁失敗の貢献度。
- wGDP(Weighted Grounded Into Double Plays): 併殺打の影響。
3. Fielding Runs(守備貢献)
選手の守備能力を評価します。
- データとしては、DRS(Defensive Runs Saved)や UZR(Ultimate Zone Rating)が使われます。
- 守備位置ごとに要求されるスキルが異なるため、各位置に応じた評価が加えられます。
4. Positional Adjustment(ポジション補正)
守備位置による難易度の違いを調整するための値。たとえば、捕手や遊撃手はポジション補正が高く、一塁手や指名打者は低くなります。
- 一般的なポジション補正(シーズン全体で約1350イニングを基準):
- 捕手: +12.5
- 遊撃手: +7.5
- 二塁手: +3.5
- 外野手(中堅手除く): -7.5
- 一塁手: -12.5
- 指名打者: -17.5
5. League Adjustment(リーグ補正)
選手が所属するリーグ(ナショナルリーグ/アメリカンリーグ)の平均的な成績差を調整します。
6. Replacement Runs(リプレイスメントラン)
リプレイスメントレベルの選手が生み出す貢献を、イニング数や打席数に基づいて差し引きます。
- おおよそ、打席数 × -0.03として計算されます。
投手のWAR計算方法
投手WAR = 投球貢献 + リーグ補正 ー リプレイスメントラン
主な要素の説明
1. Pitching Runs(投球貢献)
投手がどれだけ得点を抑えたかを示す指標です。以下の計算方法が一般的に使われます:
- FIPベース(Fielding Independent Pitching): 投手が守備の影響を排除して抑えた得点(FIP)に基づいて算出されます。Pitching Runs=(FIP−リーグ平均FIP)×投球回数×FIPスケール係数
- FIPは、投手が直接コントロールできる要素(奪三振、与四球、被本塁打)に基づく防御率のような指標。
- FIPスケール係数は、得点と失点の変換用の値(約10で計算されることが多い)。
- RA9ベース(防御率から計算): 実際の防御率(RA9: 9イニングあたりの失点率)を用いる場合もあります。Pitching Runs=(RA9−リーグ平均RA9)×投球回数×0.92
- この方法は、守備の影響を考慮します。
2. Replacement Runs(リプレイスメントラン)
リプレイスメントレベルの投手がどれだけ失点するかを基準に、投手のイニング数に基づいて計算します。
Replacement Runs=投球回数×Replacement Level Rate
- Replacement Level Rateは、リーグ平均防御率よりも20%ほど悪い水準で設定されます(例: 平均RA9が4.50の場合、Replacement Levelは約5.40)。
3. League Adjustment(リーグ補正)
選手が所属するリーグ(ナショナルリーグ/アメリカンリーグ)の環境や、試合のペースに基づいて調整されます。かつてはナショナルリーグにDH制度がなかったのでリーグ補正の違いはありましたが、近年ではリーグ補正はリーグによってあまり変わらず、ほぼ同等の補正値となっています。
WARの限界
- 計算方法は統計サイトや団体によって異なり、Fangraphs(fWAR)とBaseball-Reference(bWAR)などで結果が違う場合があります。
- 防御率や打撃成績に強く依存するため、完全な評価指標ではありませんが、選手の価値を全体的に把握する際には非常に有用です。
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